君と同盟



家庭の事情 -夜-


朝の一件のあと、レオナルドは落ち込んでいた。
もちろん腹も立っていたのだが、自省の過ぎる性分のせいで、ケンカの原因は自分にもあると思い、ため息をつくばかりだった。
もやもやを振り切るかのように淡々と家事をこなして、気づくともう夕飯前になっていた。
昨日は魚だったから今日は肉にしようかなどと思いながらスーパー内を見て回る。
そこへあるコーナーの一角がふと目に入った。
底抜けに元気そうなお馴染みのトラがこっちを見て笑っている。



玄関の開く音がして、

「ただいま」

とラファエロが帰ってきた。
まだ機嫌が悪いだろうかと思いながら、いつものように出迎えに行く。
ラファエロの様子は別に怒っている様でも機嫌が悪い様でもなかった。
かといっていつもと同じ、というわけでもない。

「…おかえり」

なんとなく気まずい空気が流れてそれ以上の会話が続かない。
いつもなら、今日は何があったとか夕飯は何にしただとか他愛のない事を話すのに。

「とりあえず、腹減った」

そう言ってラファエロは鞄をレオナルドに渡してネクタイを緩める。

「ああ、用意できてる」




無言で席に着くラファエロの前に皿を置く。
中身はとろとろにとけたビーフシチュー。
朝方のケンカの時にシリアルが食べたいなんて言っていたから夕食はシリアルにするかと思ったが、あまりにも貧相なディナーが想像できてやめた。
ラファエロがスプーンで掬って一口口に運ぶ。

「……うまい」

はっきりとそれだけ言い放ってラファエロは二口三口と黙々と食べ始めた。

「そうか。よかった」

レオナルドも食事を始める。
またシリアルじゃない、と怒り出すかと少し思っていたのでほっと息をつく。

「朝は悪かったな」

暫くしてラファエロがそう切り出した。

「ちゃんと俺のこと考えてメシ作ってくれてるのによ…」
「ラフ…こっちこそごめん。でも、明日の朝はシリアルだからな」

しゅんとするラファエロにそう言ってやると、

「マジか!?」

と目を輝かせてこっちを見てくる。
その変わり様に、そんなにシリアルが好きなのかと知らず知らずレオナルドの口元が緩む。
シリアル一つで上機嫌だなんて可愛い旦那様だ、なんていうと怒るに決まってるから言わないでおくことにした。



夕食を終えてラファエロはリビングでテレビを見て寛ぎ、レオナルドは洗い物をしていた。

「さて、風呂入るか」

と後ろから聞こえる声に、

「ああ、先にどうぞ」

と洗い物をする手も止めずに答えた。
不意に横から手が伸びてきて、すすいでいた皿が取り上げられる。
ついでに水も止められた。

「…ラフ?」

なんだ、と思って振り返ると、ラファエロがにやりと笑う。

「バーカ、お前も来るんだよ」
「え?ちょっ…」

腕を捕られてずるずると引っ張られ、浴室に連れて行かれる。
恥ずかしいし、二人で入ると狭いから嫌だと言ったのに、結局ラファエロに背中を預ける形で浴槽に収まっていた。
お湯以上に触れ合った部分が熱くて眩暈がしそうになる。

「やーっぱ風呂はいいよなぁ」
「…そうだな」

ラファエロの鼻唄交じりの呑気な声も耳に入らない。
いい加減あがりたいのに後ろから手を回されていては引き剥がせない。
鼻唄が途切れて、ちゅ、と軽い音が浴室に響く。
項に唇が押し当てられたのを感じて、レオナルドは身を竦ませた。
自分でもわかるくらいにかぁっと血がのぼってくる。

「茹でだこみてぇに真っ赤だぜ」

くっとラファエロが喉の奥で笑う。

「う、うるさい!オレはもう出るからな!」

拘束から逃れようと暴れるとざばざばと湯が溢れ、それに少し動揺したラファエロの隙を衝いて逃げた。
後ろで舌打ちするのが聞こえた。
先にあがってしまったので洗い物の続きを終わらせるて寝室で本を読んでいると、ラファエロが程なくして風呂からあがってきた。

「まだ濡れてるぞ」

ラファエロが首からかけていたタオルで水滴のついている後頭を拭ってやる。

「サンキュ」
「よし、じゃあ寝るか」

明かりを消して布団に潜りこむ。
手を繋いでどちらからともなくキスをした。

「おやすみ」
「ああ、おやすみ」

いい夢が見れますように、と祈ってレオナルドは目を閉じた。



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