君と同盟



May you be here with me


「ラファエロ?」

いつもの自主トレーニングのメニューをこなしたレオナルドは、組み手の相手を頼むためにラファエロの部屋に足を踏み入れた。
ところがあいにく不在のようで、ラファエロの姿はどこにも見当たらなかった。
仕方ない、と踵を返そうとしたレオナルドのその目にふとあるものが留まる。
鉄アレイやヘルメットと一緒になって床に無造作に置かれたラファエロのサイ。
常時肌身離さずにいるそれが持ち主に放って置かれているのは珍しいことだ。

「全く、武器は丁寧に扱えといつも言っているのに…」

眉を顰めながらもラファエロらしいと思うと苦笑が漏れた。
屈んで一振り拾い上げる。
カタナよりは相当軽いものの、ずしりと重い金属の感触がする。
持ち手に巻かれた赤い布は擦り切れて、持ち主と過ごした年月を物語っていた。
ふと、サイの扱い方を学んだことを思い出してやってみようかという気になった。
逆手に持って翼にかけた親指を中心にくるりと回し、本手持ちに変えてみる。
いつかのドナテロのように途中で取り落とすことはなかったが、あまりにもぎこちない。

「……やっぱりオレには馴染まないな」

三叉の銀を眺めてつくづく思う。
これはラファエロの得物で、いくつもの戦闘をラファエロと共に切り抜けたもの。
レオナルドが自身のカタナを命と思うように、このサイはラファエロの命だ。
誰かのために、と得物を振っても、結局それを振るう者自身が一番助けられていることをラファエロは知っているだろうか。
レオナルドは労わる様に剣尾から剣先まで指でなぞり、柄と剣と翼の交わる部分にそっと口付けた。
自分のカタナにするように、『ありがとう』と『これからも大事な人を守って下さい』との想いを込めて。

「レオ」

と不意に後ろから声が掛かって思わず手にしたサイを落としそうになる。
振り向けばシャワーでも浴びていたのであろう、ハチマキを外し、タオルを首からかけたラファエロが立っていた。
やましいことなど何もしていないのだが、訝しがるような視線に動揺を隠し切れない。

「ラフ!あ、こ、これは…」
「何やってんだ?俺のサイがどうかしたか?」
「なんでもない…大事な武器を床に放っておくなよ」
「ああ、悪かったな」

ラファエロはレオナルドの手からサイを取ると、もう一振りも床から拾い上げて鮮やかに回してから帯に挿す。
その流れがあまりに自然で、見慣れた仕種だというのに見惚れてしまった。
はっと我に返って恥ずかしくなり、背後から引き止めるラファエロの声を振り切って、逃げるように部屋を後にした。

「見られてないよな…?」

赤くなった頬を擦りながら独り言つ。
結局、跳ねる心臓を治めるために組み手から瞑想へ予定を変える羽目になってしまった。



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