君と同盟



「眠れない……」

久しぶりのベッドの中で、もう幾度目になるかわからない寝返りをドナテロは打った。
連日の徹夜で身体は悲鳴をあげているというのに、頭だけが冴え渡ってどうにもこうにも寝付けないのだ。
眠りを誘うためにホットミルクを飲んで、羊ではなく数字をゆっくりとカウントしてみたりもしたが、全く功を奏さなかった。
こんなに眠ろうと努めているのに、と思うとイライラが募って神経が興奮し、ますます眠りから遠ざかっていく。
いっそ睡眠薬を、とも思ったが、これだけやったのに薬に頼って眠りにつくのも癪だった。




あまりの落ち着かなさにベッドを抜け出したドナテロは、ミケランジェロの部屋へと足を踏み入れていた。
ミケランジェロは規則的な寝息をたてて、いかにも幸せそうな顔をして眠っている。
そのバカみたいに暢気な寝顔に知らず口元が緩んでしまう。
ドナテロはその横にそっと寄り添うようにベッドに潜りこんだ。

「うん……?ドナテロ……?」

途端に眠たそうな目をごしごしとこすってミケランジェロが目を覚ます。

「ごめん、起こすつもりはなかったんだけど……」
「……どうかしたの?」
「あーいや、それがどうにも寝付けなくってね」

そう言うや否や、ミケランジェロの目がきらきらと輝きはじめた。
なにかおもしろいものを見つけた時の目だ。
良くない予感がした。

「眠れないの!?ドナちゃんがオイラを頼ってきてくれるなんてうれしー!じゃさ、よーっく眠れるようにオイラが子守唄歌ったげる!」

そしてそれは見事に当たってドナテロはため息をついた。
こうなると静かな眠りは期待できそうにない。

「…遠慮しとくよ」
「じゃあじゃあ、本読んであげるー!」
「お前のいう本なんてどうせコミックだろ?」
「えーだめ?シルバーセンチュリーがかぁっこよく悪者をやっつける話なんだけどー」
「絶対却下」
「うー…それじゃあね、それじゃあね、こゆのはどう?」

次々とアイデアを口にするミケランジェロ。
自分のために何かできないかと精一杯考えてくれるのは嬉しい。
そしてそんな弟を愛しくも思う。
しかし――

「うるさいよ」

ドナテロはミケランジェロの顔を両手で包むと、ぺらぺらとよく回るその口を自らの唇で塞いでやった。
急なことに一瞬身を固くしたミケランジェロだが、すぐに口付けに応えてくる。
深いキスから唇を啄むようなキスへ。
その心地よさにふっと意識が遠のきそうになる。
触れ合う肌と肌。
そこから伝わってくる体温。
鼻腔をくすぐる甘い匂い。
かすかに聞こえる心音。
そのどれもにミケランジェロの存在を感じてドナテロはひどく安心する。
ああ、そうか、と急に重くなる瞼を感じながら気づく。
必要だったのは睡眠薬ではなく精神安定剤だったのか、と。
だが、ドナテロの意識が明るかったのはそこまでだった。

「も~キスの途中で寝ちゃうとかどんだけ~!オイラは抱き枕じゃないんだからね!」

微かな寝息をたて始めたドナテロに気づいたミケランジェロは頬を膨らませて文句を言い、ドナテロの頬を軽くつねった。
ドナテロはううん、と呻いたかと思うと

「マイキー……」

と妙に嬉しそうな寝顔で名前を呼んだ。
ミケランジェロは思わずきょとんとしてしまった。
しかしすぐに顔を綻ばせたかと思うと、ぎゅうっとドナテロを抱き締めた。
無意識に名前を呼ばれることがこの上なく嬉しいことだとは思いもしなかった。

「おやすみ、ドナちゃん」

そう呟いてドナテロの額にキスをすると、ミケランジェロもまた瞼を閉じた。



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