君と同盟



いつもいつも良い様にされるのは自分の方で。
悔しくて恥ずかしくて、腹が立つ。
溺れているのは自分だけのような気がして怖くなる。



部屋主でさえ滅多にいることのないラファエロの自室。
殺伐としたこの部屋も、今は空気が違っている。

「お前が俺の部屋に来るなんて珍しいじゃねーか」

深いキスを破ってラファエロが言う。

「……たまにはいいだろ」

肩に置かれたレオナルドの右手がするっとラファエロの腹腔の上を滑り落ちる。
その動きと共にレオナルドの頭も下がる。

「お、おい…!レオ!」

焦るラファエロにレオナルドは密かに笑む。
下腹を撫で、そこに啄むようなキスを落とすレオナルドにラファエロは上擦った声をあげ、その頭に手を伸ばして引き剥がそうとする。
しかし、不意にその柔らかな唇が頭を擡げ始めていた雄身に触れられてラファエロは力が入らなくなる。
信じられない光景だった。
普段潔癖と言ってよいほど禁欲的なレオナルドが自らラファエロ自身に唇を寄せて奉仕している。
その事実に身体は一層熱を帯びるが、頭がついていかない。
なにかあったのか、おかしな物でも食べたのか…
だが、惑う思考ももたらされる快楽に溶けて正体をなくしてしまう。
だんだんと息のあがるラファエロにレオナルドは更に行為に夢中になった。
いつもラファエロが自分にしてくれるのを思い出しながら舌を這わせ、先端を吸い上げるとラファエロは腰を震わせて声を漏らした。

「う……くっ…」

喉の奥まで咥え込んで嘔吐きそうになるのを堪えながら頭を激しく上下させる。

「も……離せ…」

上から掠れた声が降って来たが、レオナルドは構わなかった。
いよいよ切羽詰ったラファエロは腰を引いたが間に合わず、白濁がレオナルドの顔に吐き出される。

「悪ぃ…!」

しばし呆然とするレオナルドに慌ててラファエロはレオナルドの顔を覗きこんだ。
予想もしなかった鋭い視線とかち合う。
不意に両肩を掴まれて押し倒され、甲羅と頭を地に軽くぶつけた。

「いてぇッ…!」

ラファエロが衝撃に怯んでいる隙に、レオナルドは己の腰帯を解いてラファエロの両手をすばやく頭上で縛り上げた。
はっとしてラファエロが上を見上げると、馬乗りになって覗き込むレオナルドの目と合う。
そこに真剣な光を見て取って、ラファエロは身を竦ませた。
嫌な汗が噴き出てくる。
手も縛られてしまったこの状況ではラファエロにとって非常に好ましくない展開しか頭に浮かんでこない。

「ど、どうしたんだよ、お前……とりあえず、落ち着けって…な?」
「今日はオレがする」

潤んだ目でそう告げられる。
貞操の危機か、と縛られた腕を捩って狼狽するラファエロをよそに、頬を伝う白濁を指先に絡め、レオナルドは自ら脚を開いた。
既に立ち上がっている自身を放っておいて、濡れた指を後孔に押し入れた。
予期せぬことに瞠目するラファエロにレオナルドは薄く微笑む。
はしたないことをしているとわかっていても、熱に浮かされた頭にはもはやラファエロしかいなかった。

「ん……う…」

せめて猥りがわしい声だけは漏らすまいと奥歯を噛み締めたが殺しきれない吐息が漏れる。
レオナルドの恥態を前に、ラファエロの下腹にまた熱が溜まる。
今すぐレオナルドを掻き抱きたいのに自由にならない己の手をラファエロは呪った。

「これ、外しやがれ」
「い…やだ」

頭を振ってレオナルドは拒絶する。
また反応を始めていたラファエロの中心にレオナルドの手がかけられる。
脈打つそれを二度三度擦ると、震える手で支え、おずおずと後孔に宛がう。
そしてゆっくりと腰を落としていく。

「…う、ぁ……」

自ら身体を開くという羞恥と、指とは比べ物にならない質量のものに貫かれる苦しさにレオナルドは身を震わせた。
眦にはみるみる涙が溜まり、今にも溢れそうになる。



「はぁっ……う、んっ…」

どうにか全て収めたものの、既に膝は笑い、自分の体重を支えるだけで精一杯だ。
この状況、たまらないのはラファエロの方で、散々見せ付けられているのに触れることも動くこともままならないというのは拷問に等しい。

「くそっ…!」

ラファエロはがむしゃらに手を動かして拘束から逃れようとする。
無茶苦茶にやっていると結び目が緩んだ。
チャンス、とばかりに勢いよく拘束を解いて、上体を起こす。
驚くレオナルドをそのまま抱き、深くキスしながら後ろへ押し倒した。
折れる程抱き締めた身体は熱を帯び、肌に心地よかった。
首筋から鎖骨、胸まで唇を滑らせると、腕の中でレオナルドが痙攣するように反応し、咥え込んだラファエロ自身をキュウキュウと締め付ける。
身を起こし、苦笑いを零しながらラファエロはレオナルドの右足首を掴んだ。

「形勢逆転、だな?」

ニヤリと口角を吊り上げて笑うと、掴んだ脚のふくらはぎに歯を立てた。

「……ッ!」

走る痛みにレオナルドは顔を顰めたが、それもすぐに甘い疼きに変わる。
膝裏を持ち上げてラファエロが動き始める。



「い……ッ、ああぁっ!」

揺さぶりあげる動きに、留まっていた涙が零れ落ちる。
思考は乱れ、声を殺すこともままならない。
ラファエロは邪魔だ、とばかりに己のハチマキを剥ぎ取り、床に投げ捨てた。
猛禽のような薄い茶色の瞳がレオナルドを捕らえ、レオナルドは身を一瞬硬くする。
怖い。 
その目もラファエロに齎される愉悦も怖かった。
その緊張を感じ取ったラファエロは一度も触れずにいたレオナルドの中心に手を伸ばした。

「あっ、だめっ…!」

前と後ろ、両方からの攻めにレオナルドは成す術なく屈服してしまう。
先ほどまでの勢いはなく、自分の手で啼くレオナルドにラファエロはいつにない征服感を覚えた。

「……う、あ、ああぁあ!」

飛沫がレオナルド自身の腹を濡らす。
引き絞るような締め付けにもっていかれそうになるのをラファエロは必死で堪えた。

「……ラフ…」

忙しない息の合間に紡がれる自分の名前。
ラファエロはカッと頭に血が上るのを感じた。

「レオ……っ!」

繋がったままレオナルドを反転させ、後ろから深く貫いた。

「くぅっ…ん、ぁあ!」

極めた余韻の残る身体は普段以上に快楽に弱い。
レオナルドは己を支えることもできず、ラファエロに床に押し付けられるような態を晒す。

「ハッ!誘っておいてこの様か、よッ!」
「ひぃ、あぁっ…!」

勢いをつけて最奥を抉られ、レオナルドは悲鳴のような喘ぎを漏らす。
脳髄も溶かすような悦楽にただただ翻弄されるばかりだった。

「あ、も……もう…や、熱い、あつい…!」
「煽ったのはお前だぜ?」

含み笑いの混じった意地の悪い声が聞こえた。
その声も色に塗れて僅かに震え、快楽に溺れているのはラファエロも同じであることは明らかだった。
その声音に溺れさせているのは自分だと霞む思考の中気づいて、レオナルドは安堵を覚えた。
項に舌の這う感触がしたかと思うと、甘噛みには痛いほど歯が食い込む。

「は、あぁうっ…!」

互いの身体はもはや意のままになる部位などどこもなく、ただ本能のままに振舞うだけだった。
床を掻くレオナルドの手をラファエロが握る。
レオナルドは重ねられた手に指を絡めて握り返す。
溺れる者同士、無意識に互いに縋るように。

「ああぁあああ!」
「く、ぅっ……」

ラファエロの下でレオナルドの体が波打ち、再び昇りつめる。それと同時に深く腰を押し付けて、ラファエロがレオナルドの体内で果てた。






「そういや、なんで妙にやる気だったんだ?お前」

憔悴しきってぼうっとしているレオナルドにラファエロが尋ねる。
結局散々啼かされて立てなくなったのはレオナルドだけで、ラファエロはというと何やら嬉しそうで腹が立つ。
自分のした事を思い出して、レオナルドは自己嫌悪に陥る。
まさかラファエロが自分に溺れるところが見たかっただなんて言えない。



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